泌尿器科学教室では、現在主にOncology(腫瘍学)に関連する基礎研究に取り組んでいます。
当教室は、泌尿器科分野でのがん研究を中心に、基礎から臨床への橋渡しを目指し、世界に貢献する研究活動を行っています。
泌尿器癌、特に前立腺癌は、当教室の研究テーマの中核をなしています。
日本では食生活の欧米化や高齢化の進展に伴い、前立腺癌の罹患率が年々増加し、2015年以降、男性のがん罹患率の第1位を占めています。
その中でも、初期治療として有効な内分泌療法に抵抗を示す去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)は治療が難しく、患者さんの予後を改善する新たな治療法の開発が急務となっています。
当教室では、このCRPCの発症メカニズムを明らかにし、新しい治療法を開発することを目標としています。
その一環として、ヒト前立腺癌の自然史に非常に近い特性を持つマウス前立腺癌モデル(PSAコンディショナルPTENノックアウトマウス)を開発しました。
このモデルは、前立腺癌の発生や進展を再現するために設計された特別なマウスであり、基礎研究から応用研究に至るまで幅広く活用されています。
最近では、腸内細菌叢がアンドロゲンシグナル経路を介してCRPCの進展に関与する可能性に注目した研究を進めています。
この研究では、進行性ホルモン感受性前立腺癌(HSPC)患者がホルモン療法を受けた後にCRPCへ進展する過程での腸内細菌叢の変化を解析しています。
さらに、CRPCモデルマウスのデータと統合することで、進展に関わる特定の腸内細菌や代謝経路を明らかにしました。
この成果は、腸内細菌叢やその代謝産物を標的とした新しい治療戦略の基盤となるものです。
将来的には、腸内環境の調整を通じて前立腺癌の進行を抑制する治療法の開発を目指しています。
当研究室では、腫瘍微小環境が免疫治療の効果に与える影響についても研究を進めています。
特に、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を制限する腫瘍微小環境に注目し、以下のような研究を行っています。
AR阻害薬はアンドロゲンシグナルを遮断し、AKT阻害薬は腫瘍細胞の生存シグナルを抑制する働きを持ちます。
この2つの薬剤の併用が腫瘍免疫環境に与える影響を解析し、ICIの効果を向上させる可能性を探っています。
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤が免疫細胞、とくに制御性T細胞に与える影響を評価しています。
この研究では、HDAC阻害剤とICIの併用効果を検討し、ICI耐性を克服する新たな治療法の可能性を模索しています。
当教室では、このような基礎研究を通じて得られた知見を臨床へ還元することを目標としており、国際的な学会でも成果を発表しています。
総括主任であるデベラスコ・マルコ(アメリカ人)は、基礎研究全般の運営・指導を担当しており、研究助手やリサーチナースがチームの一員として活動しています。
また、臨床を主に担当する医局員も、研究室のサポートの下で基礎研究に参加しています。
当教室では、このように、基礎と臨床の枠を超えた体制の下、前立腺癌治療の新たな地平を切り開くことを目指しています。