近畿大学医学部泌尿器科学教室研究室案内
泌尿器科学教室研究室(リサーチラボ)は、現在主に、①がん(Oncology)、②排尿生理(Neurogenic bladder)、③腎移植(Renal transplantation)の3つの基礎研究チームで構成されています。リサーチラボの主任は、デベラスコ・マルコ(アメリカ人)で、主にがんの基礎研究全般を指導・担当しています。
研究助手は男性1名、女性6名で、他に臨床研究をコーディネートしているリサーチナース(看護師)が3名います(写真参照)。がんの基礎研究の中で現在最も力を注いでいるのが、前立腺癌の研究です。前立腺癌は泌尿器癌の中でも非常に罹患率が高く、米国においては男性がんの罹患率1位、死亡率2位になっており、本邦においても近い将来(2020年頃)に罹患率1位となることが予想されます。
なかでも転移性前立腺がんは、初期治療として内分泌治療が有効ですが、その後、去勢抵抗性前立腺癌となるとコントロールは困難であり確立した治療法は希薄です。現在、前立腺癌の発癌・進展の過程に関する遺伝子の異常など解明されてきましたが、いまだ去勢抵抗性獲得の機序は不明です。当研究室では以前より積極的に前立腺癌の研究を行い、ヒト前立腺癌の自然史と極めて類似したマウス前立腺癌モデルを開発しました。
このマウスモデルを用いた多くの実験を行い、様々な学会で成果を発表し国内外から高い評価を受けています。今後も臨床へのフィードバックを目的とし、前立腺癌の発生、増殖、進展メカニズムを解明するとともに、よりよい治療法の開発のための研究を行い前立腺癌の制圧を目指しています。
遺伝子改変(GEM)マウスモデルの開発目的
臨床の現場において、進行性前立腺癌は内分泌療法と化学療法の限られた治療オプションしかないのが現状ですが、その要因として in vivoの実験系での検証システムの不足が挙げられます。
つまり、免疫不全であるヌードマウスを用いたxenograftモデルで治療効果を確認できても、ヒトにおいては同様の効果が認められないことが多々あります。
そこで我々は遺伝子改変マウスモデルに着目し、ヒト前立腺癌の自然史に酷似した前立腺癌発生マウスモデルを開発し、前立腺癌の発生・治療など多岐にわたる研究が可能となるマウスを確立しました。
PTENノックアウトマウスモデルを用いた研究
前立腺癌において、PI3-Akt経路は恒常的機能亢進が認められていますが、我々はリン酸化Aktに着目し、そのregulatorであるPTEN癌抑制遺伝子を中心に検討してきました。
Conditional gene targeting法により、前立腺組織のみPTEN遺伝子をノックアウトしたPTEN flox/PSA-Creマウスモデルは前癌状態であるPINを経て15週齢では100%前立腺癌が発生し、さらに除精術によりテストステロン欠如下においても、再び強いアンドロゲン受容体(AR)の発現と共に腫瘍の増殖が認められる去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)へと移行する非常に有用な動物モデルです。
このマウスでIntervention、ChemopreventionやRegressionなどの各種治療実験を施行するとともに、このマウス前立腺癌から培養細胞を確立し、DNA・Tissue Microarrayを用いた分子マーカーの同定なども行っています。
現在進行中の研究案内
去勢抵抗性前立腺癌の機序の解明
新規分子標的薬の検証
新規分子マーカーの同定
前立腺癌のメタボロミクス解析
前立腺癌における併用治療効果の検証
一方、当教室では「がんワクチン」の開発から臨床応用まで、世界的に注目されている研究を行ってきました。
現在も新規ペプチドワクチンの開発・特許申請(平成26年度に3件申請)を行い、膀胱癌、腎癌、前立腺癌患者に対するワクチン治療を実践しております。
これまでに、100名以上の症例を治療して、多くの国際学会で成果を報告し、高い評価を受けています。